先週の金曜日、ニッポン放送SuonoDolce「カフェデジュネ」に出演させてもらって、韻の解説をさせてもらった。
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その中でも触れた、ミスチルの韻について、ここで詳しく解説したい。
ミスチルはいろんなタイプの韻を踏む
昔からミスチルは韻を多用してたけど、その踏み方は今と比べると、もう少しあからさまで踏み方が荒く、「韻のためなら何でもする、悪い奴ら」というイメージだった。
たとえば「名もなき詩」の
Oh darlin'
僕はノータリン
なんかは、「Oh darlin'」と韻を踏むために「ノータリン」と言ったはいいけど、これが放送禁止用語ではないが不適切な用語ということでNHKでは歌詞が差し替えられて放送されたらしい。ラッパーによくある、韻に引っ張られて言いたいことが言えないパターン。英語で言うとポイズン。
その後、「シーソーゲーム」では
シーソーゲーム
She so cute
という頭韻のために、be動詞をすっ飛ばして英文法を無視したこともあれば、「ニシエヒガシエ」では
ニシエヒガシエ
必死で猛ダッシュです
と、これは母音が「いいえいあいえ」「いいえおあうえう」で微妙に違うから、この違いをカバーするために「もうダッシュです」の部分を「みぃだしでぇえs」みたいに歌い、かつ最後の「す」に音を乗せないことにより、「必死で猛ダッシュです」の母音も「いいえいあいえ」のように無理やり聞こえさせるなんていう、荒技もあった。
これが意外といけると思ったのか、その直後のシングル「終わりなき旅」で
終わりなき旅
を「わぁぁ(り)なぁぁ(き)たぁぁぁぁぁ(び)」って、最後の「び」に一音乗せないという荒技をもう一度繰り出し、この曲をカラオケでかっこよく歌いたい高校生男子を、「び」をどのタイミングで言うか問題で悩ませたこともあった。
ちなみにこの韻は、
わーり
なーき
たーび
の母音が全部「あーい」になっているという仕組みだ。
さらにこれに味を占めたことにより、「フェイク」のサビでは
二階建ての
明日へと Take off
で、「階建ての」と「明日へと」の母音を「あいあえお」で揃えてキレイに踏んだあと、二番では
地下二階の
過去から Take off
と、「(ち)かー(に)かー(いの)かー(こ)かー(ら)」と、音が乗ってない文字(括弧に入れた文字)を無視するとすべて「か」になるようにするという、「終わりなき旅」の強化版を披露したりした。
どんどん進化していくミスチルの韻。ちょっとdisっているように聞こえたかもしれないけど、むしろ逆で、僕はこういう韻を踏むための荒技が大好きだ。というか、そもそもラップ以外の音楽で日本で韻を踏むアーティストはとても少ない中、韻を頻繁に踏んでくるミスチルは最高だ。
韻を極めた最近のミスチル
そんなミスチルだが、最近では韻を曲の中にナチュラルに入れすぎて、誰にも気づかれないことが多い。
個人的に一番お気に入りの「GIFT」という曲で解説する。
Mr.Children「GIFT」Music Video(Short ver.) 
うーん、感動して、韻どころではない。涙で韻がよく見えない。
この曲の中で一番わかりやすい韻は、
僕は探してた 最高のGIFTを
の部分。次に同じメロディーで
僕の両手がそれを渡すとき ふと謎が解けるといいな...
というのがあって、「GIFT」と「きふと」が同じ母音「いうお」で韻を踏んでいる。
さらにこのあと、二番の同じ部分の歌詞は
「もうやめにしようか?」自分の胸に聞くと
なので、ここも「聞くと」の母音がさっきと同じ「いうお」になっている。この三つを並べると、
ぎふと
きふと
きくと
なので、いつも言っている「韻の踏み始めと踏み終わりは、母音だけじゃなくて子音も合わせる」テクニックも自然に使われている。この場合、最初の文字がすべて「き」(または「ぎ」)で、最後の文字がすべて「と」。
実は、この話をいろんな人にすると、意外とこの韻にも気付いていない人が多いことに驚く。理由は簡単で、ミスチルは言ってることがいちいち感動的すぎるから。メッセージ性のほうに耳がいってしまって、音として言葉が入ってこない。
でも、たとえ韻に気付いていなくても、心のどこかで気持ちよかったり、ふと口ずさむときに思い出しやすい、なんてことがある。これが韻のサブリミナル効果。気を抜くと韻に洗脳されてしまうから、みんな気をつけたほうがいい。
そして...これがミスチルの韻の完成形
上の例はGIFTの韻の基本。この韻を踏まえた上で、もう少し深いところにいく。
サビに入る直前の部分、
長い間君に渡したくて
強く握りしめていたから
もうぐちゃぐちゃになって
色は変わり果て
まず「長い間」の部分。音が乗っていない(韻的には無視できる)部分に括弧を付けると、「なが(い)あ(い)だ」となり、すべて「あ」の音になっている。「↓な ↑が ↑あ ↓だ」のように、真ん中の二文字の音程が高くなっていて、その真ん中の「があ」とその後の「から」が両方母音が「ああ」で対応しているようにも聞こえる。
その後、 「た(く)て」「な(っ)て」「はて」の母音がすべて「あえ」になっている。再び、括弧内の文字は、その部分には音が乗っていないので韻的には無視することにする。
さてこの部分、二番では歌詞がどうなっているかというと、
知らぬ間に増えていった荷物も
まだなんとか背負っていけるから
君の分まで持つよ
だからそばにいてよ
今度は、「しら(ぬ)まに」の部分が「↓し ↑ら ↑ま ↓に」と、低い音は「い」で統一され、高い音は「あ」で統一されている。それでもやはり真ん中の音程が高くなっている部分が「らま」で、その後の「から」と踏んでいて、一番のこの部分と同じパターンが見られる。
そして、一番と同様に「荷物も」と「持つよ」が、「(に)もつも」「もつよ」で韻を踏んでいる。ということは、一番と同じ構造であれば、ここでもう一発、最後に母音が「おうお」になるものがくるはず。
しかも二番のサビに入る直前で最大の盛り上がりを見せる場所だから、相当にレベルの高い韻がドーンと放たれるに違いない!
国民的バンドであるミスチルの渾身の韻を全身で受け止めようと、全国民が母音「おうお」に期待した、その瞬間。
だからそばにいてよ
...あれ?
全然「おうお」じゃない。なんだこれ。「いえお」じゃないか。
これだけ期待させておいて、最後の最後の大事なところで、踏み外す。こんな度胸があるのは、今の日本では桜井さんしかいないだろう。
ずっと踏んできたのに、いきなり韻とか無視で真面目なことを言う。これは、まさに、普段おちゃらけたキャラのクラスの男子が、二人きりになった瞬間に、真顔で話しかけるような感じ。「だからそばにいてよ」という告白に近いセリフが、韻を踏まないことによって、ぐっとシリアスに聞こえる。
桜井さんは、こんなことを、全部わかっていてやっているに違いない。ズルい。ズルすぎる。韻を踏むことを期待させておいて踏まないことが逆にかっこいいなんて、桜井さんレベルのカリスマ性がないと無理だ。
まとめ
僕みたいにカリスマ性のない一般人は、これからも頑張って韻を踏むことにする。
この本の中では「しるし」の韻について解説しました。
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