やっぱり、この話題に触れざるを得ない。
年末にネット上で話題になったこの記事、覚えている人も多いはず。この記事のおかげで中西哲生さんのラジオに電話出演させてもらってこれが韻かどうか解説したりしたんだけど、結局中西さんがラップをやって下手でみんな爆笑して終わるという流れになってしまったので、ここでしっかりと解説したい。
パソコン苦境、見えぬ展望
東芝・富士通・VAIO統合
...まぁ、踏んでないよね?
揺れる韻の定義
いやまぁ踏んでるかもしれないけど、少なくとも現代の日本語ラップの感覚からすると踏んでない。90年代ならまだしも、今これを踏んでると見なすラッパーはいないと思う。
いや、百歩譲ってこれを「広義の」韻としよう。それでも、この記事のタイトルにあるように「韻を踏みすぎて」はいないよね?少なくとも。
日本人の韻リテラシー
「日経新聞がラッパー気取ってるのに韻全然踏めてないw」って面白がる記事ならいいんだけど、「日経新聞韻踏みすぎw」って流れになってるのはおかしいよね?
まぁこれを面白がる人は誰も韻に興味ないんだからどっちでもいいんだろうけど、こういうのが話題になったときに、誰かが空気を読まずに真顔でちゃんと本当のことを言わないと、こういう分野の発展は見込めないわけです。韻に限ったことではないけど。
そして、こういうときのために真顔で生まれてきたのが、僕です。こんにちは!
声を大にして言います。日本人の韻リテラシーはOECD諸国の中で群を抜いて低い。みなさん、自覚してください!
ホンモノの韻ってのはなぁ...
韻はこんなもんじゃないっていうのは2000年ぐらいにみんな知るチャンスはあったのです。たとえば、KICK THE CAN CREWの「マルシェ」。みんな歌えるでしょ?
ひがみも妬みも話のネタに
ほほえんでるぜ裸足の女神
太字にした部分の母音が「ああいおえあい」 で一致している、と。
で、このあと、
さらにおねだりする禁断の実
って続いていくけど、ここもしれっと「ああいおえあい」になっててさっきと一緒、と。
これが韻です。母音を7文字とか合わせるの。2002年にはこのレベルの韻がテレビでも街中でも流れてたわけです。みんなが聞いていたわけですよ。
ここで重要なのは、「東京生まれHIPHOP育ちの悪そうな奴」らだけじゃなくて、善良な市民までもが、この良質な韻を聞いてたってこと。だってこの曲カラオケで練習してた中高生多いでしょ?上の歌詞知ってるでしょ?
僕も三重県生まれだけどカラオケで歌ってました。 悪そうな奴はだいたい怖かったけどこの曲は歌ってました。
2002年って14年前ですよ。 どんだけ韻の文化が一般に普及してないんですか!あの頃のラッパーが14年後に、
「VAIO統合!」「おおー、日経新聞すげーw」
って未来を想像してたと思いますか?悲しすぎる!!
全部ジョイマンのせいだ!
で、日経新聞はどうなの?
あらためて、何でこの記事のタイトルが韻を踏んでないのか言いますよ。
パソコン苦境、見えぬ展望
東芝・富士通・VAIO統合
これをひらがなで書くとこうです。
ぱそこんくきょう みえぬてんぼう
とうしばふじつうばいおとうごう
合ってる母音二文字って!それを韻と呼ぶのはやめてほしい。これについては、この記事で書いたとおり。
だから、これは韻じゃないです。韻だとしたら不完全韻です。もう一度言うけど、少なくともタイトルにあるように「韻を踏みまくって」はいないです。
じゃあ日経新聞はどうしたらよかったのか
じゃあちゃんとした韻を踏んでみよう。まず、何が一番伝えたいことか決める。この場合、明らかに、
東芝・富士通・VAIO統合
が言いたいことだよね?だからこれで踏む。母音は、
おおいあういううあいおおうおう
で、まぁ最後7文字ぐらい合ってたらいいんだけど、せっかくだから全部踏もう。たとえば、まず意味を考えずに適当にやると、
行司がスリル 辛い土俵上!
東芝・富士通・VAIO統合!
とか。これも母音が「おおいあういううあいおおうおう」だから、全部さっきと一緒。これで一応、韻。「行司」と「土俵上」が、古文の短歌でいうところの、「縁語」。それはいいんだけど、そのあとの統合の話とのつながりが無さすぎるから後で直す。
次に、どこで区切るか決める。
とーしばふじつーばいおとーごー!
って言ってみるとわかるんだけど、「ふじつー」の伸ばし棒「ー」が邪魔。伸ばし棒って母音じゃないから無視していいのね。だからここ縮めて言って、
とーしばふじつばいおとーごー!
にすると、だいぶラップっぽくなるはず。上の二つを実際に言ってみたらわかると思うけど、下のほうが圧倒的に言いやすい。
すると、一文字削れるから、こうなる。
行司が住みづらい土俵上!
東芝・富士通・VAIO統合!
土俵に住みづらいってなんだよって思うけどそれは後で直す。
次は踏み始めを意識する。踏み始めは母音だけじゃなくて子音まで合わせておくと、ぐっと韻が際立つ。今回の場合「東芝」の部分。「とうし」「ぎょうじ」は子音が違ってるからここは両方「とうし」に合わせよう。
日経新聞の話だし、「東芝」と「投資家」で韻を踏もう。「行司が」を「投資家」に変える。
投資家住みづらい土俵上!
東芝・富士通・VAIO統合!
いい感じでしょ?踏み始めが「とうし」で一致するだけでだいぶ聞こえがよくなったはず。
最後はちゃんと意味を通そう。投資家が土俵に住まなくていいようにしよう。住みづらいらしいし。
ついでにラッパーっぽくしておこう。とりあえずスキルとかバイブスとかリスペクトとか言っとけばラッパーっぽいから、入れておこう。今回の場合「住みづ」のところに「スキル」は入る。
で、もう行司がどっか行ったから相撲じゃなくていいから「土俵上」はやめよう。「ぞ、相当」とかにしよう。
投資家スキルないぞ相当!
東芝・富士通・VAIO統合!
でどうでしょう?これで意味も通った。ひらがなで書くと、
とうしかすきる ないぞそうとう
とうしばふじつ ばいおとうごう
で、母音が両方「おういあういううあいおおうおう」になるでしょ?
これが韻。ラッパーぽいでしょ?投資家disってるあたりも。
まとめ
ちょっとふざけすぎたけど、東芝・富士通・VAIO統合ってやばいな...
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