オリラジの「PERFECT HUMAN」が人気だ。
Mステ出演も果たし、YouTubeの再生回数はもうすぐ2千万に達しそうだ。このネタがなぜネット上で話題になったのか分析したこの記事も話題になった。
コンテンツを作る身として、とても勉強になる。
さて、このブログでは、なぜ「PERFECT HUMAN」がバズったのかを、「韻」という観点から解説する。逆にいうと、韻という観点からしか、解説しない。もう慣れたと思うけど、よろしく。
まず、藤森パートの韻はどうでもいい
この曲は藤森のラップから始まるから、この部分の韻の解説を期待されそうだけど、その期待には応えられない。なぜなら、こんな感じだからだ。
時は来た彼こそ真の支配者
彼の前にひざまずくのは敗者
感謝の言葉 彼に乱射
賢者 識者 かけろ拍車
この部分の韻は、とても甘い。 全部通して母音が合っているのは「しゃ」の一音だけで、かつ同じ「しゃ」でも漢字で書くと「者」になるものが半分以上なので意味に多様性がない。
たとえば、「支配者(しはいしゃ)」と言ったなら、「いあいあ」で母音だけを合わせればいいのだから、「みたいな」「嫌いだ」「期待感」などで踏むべき。「しゃ」を子音まで無理に合わせる必要はないから、そんなことは忘れて4文字すべての母音だけを合わせにいくべき。
これは初心者にありがちな「子音まで合わせようとしてしまうがあまり、母音の合っている文字数が減ってしまう」現象だ。(これが本題ではないのでこれ以上は突っ込まない。より詳しく知りたい方は、過去に書いたこの記事を参照)
まぁ、お笑い芸人のネタなんだから、韻についてうるさく言うつもりはない。この曲が気持ちいいのは、サビだ。
この曲が韻的に評価できるのはサビ
サビはこんな感じ。
na ka ta nakata
na ka ta nakata
na ka ta nakata
I'm a perfect human
これの何が韻なのか、と思うかもしれない。「ナ!カ!タ!ナカタ!」と連呼するだけだが、よく考えたら、これは全部「あ」段の音だ。
そしてその後の「I'm a perfect human」の部分は、「ア マ パーフェク ヒューマン」という感じで歌うが、その最初の3文字「ア マ パ」が、ここも全部母音が「あ」になっている。
つまり、「ナカタ」自体がすべて「あ」の音というだけで結構気持ちいいのに、その藤森のコールを中田が「ナカタ」と踏んでいる「アマパ」で受けて、登場するのだ。登場の仕方として、かっこよすぎる。これが、この曲サビが聴いていて気持ちいい理由だ。
我々とオリラジの違い
実は、僕の所属するラップユニットBeaglooveに「中田」ではないが「田中」がいる関係で、我々も似たようなことを5年前にやったことがある。
この動画の3:20 あたりからの歌詞は、
(...Wonderlandは)
無いからじゃあ
やっぱRapは中々ならば
貴方がまたカマさなきゃ
田中様!
(ここから田中登場)
あなた方が「あ」ばっか
放ったからって
そんなもんにゃ縛られんぜ
この部分の発音(音が乗っている文字)をひらがなにすると、「なからじゃやぱらぱなかなかならばあなたがまたかまさなきゃたなかさま」と、31文字連続「あ」の音で田中様を呼び出し、その田中様が「あなたがたがあばかはなたから」と、14文字連続の「あ」で返しながら登場してくる、という仕組みだ。
しかし、これだけ「あ」の音を合わせても我々は人気なくてオリラジが人気なのは、我々にカリスマ性がないことと、「あ」の数とかみんな別にどうでもいいからに他ならない。
「あ」踏みの世界へようこそ
ちなみに、ここまで「中田」「田中」を挙げたが、他にも「赤坂」「中畑」「山川」など、下の名前でも「まさや」「さやか」など、「あ」の音だけで構成される名前は挙げたらキリがない。
同じことを「え」でやってみると、めちゃくちゃ難しい。たぶんひとつも思いつかないと思う。
人の名前や地名に限らず、日本語は母音が「あ」だけで構成される言葉が圧倒的に多い。そういう事情もあって、「あ」で踏むことでキャッチーさを得ている曲は結構多い。
たとえば「おさかな天国」は、
サカナサカナサカナ
サカナを食べると
アタマアタマアタマ
アタマがよくなる
と言った具合に、「サカナ」も「アタマ」も「あああ」であることをうまく使っている。
しかしながら、「あ」で縛りながら、意味も通すのはなかなか難しい。
そこで、韻の天才、LITTLE氏のこのバースを最後に紹介して、お別れしたい。「彼方(かなた)」という曲から、以下の部分。(ちなみに彼方も「あああ」)
ただただワガママあらわな裸は
華やかさか はたまた儚さか
あからさまな浅はかさが若さならば
やっぱ輝かなきゃ
上の歌詞で赤く色付けした部分が、すべて「あ」だ。え? 赤い部分しかないって? うん、だって、全部「あ」なんだもん。
「ただただわがままあらわなはだかははなやかさかはたまたはかなさかあからさまなあさはかさがわかさならばやぱかがやかなきゃ」
これ、全部「あ」の音だ。数えてみたら、57文字あった。
そして、何がすごいって、これだけ全部「あ」にしながら、ちゃんと意味の深いことを言っている。本当に、恐れ入る。
(この曲の話もしたのにカットされてしまった対談が、こちら)
まとめ
話が「あ」の話になってしまったが、本題であるオリラジの話に戻す。
あれ、ていうか、オリラジの「あ」の数いくつだっけ... まぁいいや、結論。オリラジのこの曲が人気なのは、ずばり、ダンスがキレッキレだからだ。
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