韻解説ブログ更新してなかったけど、 久しぶりに全力で解説したい曲が出てきたので更新する。
KICK THE CAN CREWの「住所 feat. 岡村靖幸」、もう聴きましたか?僕は152回聴きました。前奏からもう最高ですよね。KREVA氏のフロウも最高ですよね。
KICK THE CAN CREW 「住所 feat. 岡村靖幸」Music Video
ここまで書いて、いつもこのブログを読んでくれてる人なら、「あー、はいはい、どうせLITTLE氏の【ひっぱたく】と【Hip Attack】が日本語と英語で踏んでてすごいって解説するんでしょ」と思うはずだ。
うーん、正解なんだけど、正解じゃない。でもいつも読んでくれてありがとう。
「ひっぱたく」と「Hip Attack」がすごい?
YouTubeにもこんなコメントを見つけた。
83個もいいねが付いてるのでみんなこの部分は好きなんだろう。ただ、果たしてどれぐらいの人が、この韻の本当の意味でのすごさを理解してるのかなと思ったので、このブログを書くことにした。
もちろん、「ひっぱたく」という日本語と「Hip Attack」という英語が、同じ音で韻を踏んでいて、すごい。でもそれだけなら、韻の神様であるLITTLE氏は日常的に行っていることで、いまさら騒ぎ立てることではない。ここに込められた本当の意味を知ってこそ、このいいねを押してほしい。
まずこの部分の歌詞をいつものように色付けすると、こんな感じ。
My baby in the house
その他大勢みんなカスと化す
文句ある奴ひっぱたく
つかケツで踏んづけるHip Attack
確かに韻はすごいんだけど、この歌詞だけ見ると「一緒の家に住もう」というラブソングの中で「文句ある奴にHip Attackする」というのは、ちょっと唐突すぎる気もする。「ひっぱたく」という言葉と合わせるためだけに無理やり「Hip Attack」という言葉を使ったんじゃない?と思う人もいるだろう。
違う。LITTLE氏は、韻に引っ張られて言いたい事を曲げるような人ではない、ということをわかっているKICKファンは、この不自然さに違和感を覚え、何か隠された意味があるに違いないと考えるのだ。今日は、KICKファンはこの曲をどう聴くか、解説する。
この曲に込められた真の意味
LITTLE氏のこのバースの違和感を念頭に置いて、この曲の冒頭から聴き直してみると、同様の違和感は他の箇所にも少しずつ点在していることに気づく。冒頭のMCU氏のこの部分はどうだろう。
このハートに決してない類似品
炎燃える熱(あつ)い道
韻を踏むときは普通、核となる言葉があって、それを使おうと決めた後、踏める韻を考える。そのため、核となる言葉は名詞であることが多く、それを決めてから韻を踏める言葉を探すという手順になるので、言葉の区切りが綺麗な方が核となる言葉だ。
そう考えると、「熱い道」は「ついみち」だけが韻に絡んでいることを考えると、こちらではなく「類似品」のほうが韻の核となる言葉なはずだ。
しかしよく考えてみてほしい。「一緒に住もう」という内容のラブソングの中で、「類似品」なんて言葉をわざわざ使うだろうか? 他の言葉と韻を踏むために「類似品」という言葉を使うのならわかるが、ここでは明らかに「類似品」のほうが核となる言葉になっているのだ。
なぜMCU氏は「類似品」という言葉をわざわざ使いたかったのか。そう考えて、少し前から聴いてみると、
どっと押し寄せる荒波の中
掴む愛の塊を
このハートに決してない類似品
炎燃えるあつい道
おわかりだろうか(このブログ始まって以来最も意図的に、韻の部分の色選んだ笑)。そう、塊を(かたまりお)には「マリオ」、類似品(るいじひん)には「ルイージ」が入っている。
ということはこの曲は...
有名な話で、KICK THE CAN CREWは、ラブソングを一曲も出したことがない。過去のヒット曲の数々を思い返してみても、ラブソングは一曲もないずだ(クリスマス・イブ Rapは微妙なラインだけど、まぁあれは原曲があるから仕方ないということで)。しかし、この「住所」は、普通に聞いてみると、もう完全にラブソングだ。
岡村靖幸氏とコラボしたからって、いきなり普通にラブソングを出しちゃうものなのか?活動再開後、「千%」を初めて聞いたとき、僕らは「14年経っても何も変わってないキック」に心底感動したはずだ。三人のフロウもトラックも14年前と何も変わらず、「僕らが望んでいるキック」のまま復活してくれた。それなのに、ラブソングを出さないという方針だけは、変わってしまったのか?
答えはNoだ。この曲は、ラブソングではない。ここで「マリオ」「ルイージ」が隠れていることに気づくと、歌い出しの「サッと流れる風景」ってのはマリオの横スクロールのことを言っているように思えてくるし、そのあとの「2 play」ってのも納得がいく。「どっと押し寄せる」ってのは「ドット」とかかっているようだ。
MCU氏といえば、ファミスタ公式ソングを出しちゃうぐらい、レトロゲーム好きで知られている。そう、この曲はどうやら、恋人に向けたラブソングではなく、それぞれが自分の好きなものに対する思いを歌っている曲なんじゃないか、と気づく。
つまり、MCU氏がこの曲の中で言っている「君」というのは、恋人のことではなく「レトロゲーム」のことなのだ。だとしたら、LITTLE氏は何について歌っているのか。LITTLE氏が好きなものといえば... と考えながら「君」が歌詞に出てくる部分を聴いてみると、
きっと果てしなく続くエターナル
君なしじゃ俺口下手んなる
君なしじゃ俺口下手になる... あ、「韻」だ。決定。間違いなく、LITTLE氏は、自分の好きなもの「韻」についての思いを歌っている。
ということはHip Attackは...
ここで、冒頭で触れた「Hip Attack」のバースに戻る。LITTLE氏は「韻」についての思いを歌っているということを意識して聞いてみると...
文句ある奴ひっぱたく
つかケツで踏んづけるHip Attack
わかりますか?「ケツで踏んづける Hip Attack」って、文章の最後(つまり「ケツ」)で、「踏む」ものって何? 韻でしょ!!
そう、「Hip Attack」は、「ひっぱたく」と踏みたいがために無理やり出てきた言葉ではない。むしろ逆だ。最初から、「韻」への思いを歌った歌で、韻は「ケツ」で「踏む」から、Hip Attackという言葉を使いたかったのだ。
Hip Attackのあと、 こう続いていく。
世界のみんなからdisられたって
君と共にいるいつまでだって
水かけられたっていいんだ
いいんだ これシャレじゃねぇんだ
韻的には「かけられ」の部分がクロスしていて複雑(赤の韻と青の韻が混ざる部分なので紫で表現してみた)なんだけど、もうここは韻の解説は置いといてメッセージに注目したい。
音源で韻にこだわり続けるラッパーは今の時代減ってきている中、いろんな人からdisられても、水かけ論になっても、ずっと君(韻)と共にいる、という宣言。最高すぎる。
そして最後の「いいんだ これシャレじゃねぇんだ」ってのは、「いいんだ」を「韻だ」と読めば、「韻はダジャレじゃない」ってことが言いたいと思われる。
(もっと言えば、岡村靖幸氏の「愛はおしゃれじゃない」という曲のサンプリングでもある)
いやぁ、これは歴史に残る名韻だ... 「韻を踏む」という行為は二つの言葉の響きを合わせることをいうが、それ自体は、もう「ひっぱたく」「Hip Attack」のように母音も子音もすべて一致してしまったらそれ以上のレベルは存在しない。そこまで極めてしまったら、次はその韻にいかに隠された意味を持たせられるかがが重要で、彼らが全盛期に韻の可能性を最前線で開拓してきたのと同様、この新しい分野を開拓し始めた感がある。やっぱKICK最高。
そんなことを意識しながらもう一度「住所」聴いてみると、きっと新しい発見があるのではないでしょうか。僕はあと178回は聴くと思います。
Twitterやってます。
KICKの韻についてはこの本の中でもたくさん解説しました。